ゼロから工場立ち上げ。元戦略コンサルがTBMで初めて手にした「諦めない力」

2023 3/10

2022年11月、神奈川県横須賀市にTBM横須賀工場が竣工しました。
使用済のLIMEXと汎用プラスチックを再生ペレットに生まれ変わらせるリサイクルする工場です。年間4万トンという処理能力は国内最大級。回収してきたLIMEXとプラスチックを近赤外線によって自動選別するという最先端の技術を擁しています。このプロジェクトを最初期から推進してきたプラント事業部の杉山部長に、まったくのゼロから工場を立ち上げるまでの苦労談、そしてリサイクル事業に懸ける思い、実現したい未来について聞きました。さらにTBMは、同様の工場を国内外に展開予定。共に挑戦する仲間を募集中です。

杉山 琢哉/プラント事業部 部長
東京大学工学部卒業後、アクセンチュア株式会社の戦略グループに入社。消費財業界担当シニアマネージャーとして活動。トップライン向上支援にフォーカスし、全社成長戦略、新規事業、新商品開発、セールス&マーケティング戦略、デジタル戦略を担当。2018年、TBMに入社。LIMEXの新規用途開発に携わり、LIMEX Bag等のプロダクトにおける第一案件を開拓。TBMとして当時、新規事業であった資源循環ビジネスの戦略立案から実行も担う。現在は、TBMの資源循環ビジネスを牽引するリサイクルプラントの第一号立上げ、国内外拠点展開の企画/推進、生産技術開発を推進。
共著:『外資系コンサルのリサーチ技法』

※所属や業務内容は、インタビュー当時のものです。

目次

#1. 縫製工場を閉じることに人生を捧げた父の背中とものづくりへの思い

――プラント事業部長としてリサイクル工場である横須賀工場をゼロから立ち上げた杉山さんですが、ものづくりには昔から興味があったんですか。

実家は愛媛県今治市でTシャツなどを作る縫製工場だったんです。祖父が起こし、父が継いでいたのですが、新興国への製造シフトが進み、同業者は最盛期の10分の1も残っていない状況で、工場は父の代で閉じることになりました。
借金もあったし、周りに迷惑をかけずに工場を閉じるということに父は人生を捧げてきたようなものです。そんな父を僕はすごく尊敬しています。
僕が工場を継ぐということにはならなかったけれど、父の背中を見ながら、ものづくりで世の中に貢献したいという思いはずっとありました。ただ、縮小産業ではなく、これから発展する新しい産業で、世の中にインパクトを与えたいという思いですね。
大学は機械工学科に入って、世の中のためになる分野ということで環境工学をやりました。温室効果ガスの排出量が少ない冷房の研究をしたり、インターネットでリユースの仕組みをつくるベンチャー企業でインターンをしたりもしたのですが、一技術者の立場では世の中にインパクトを与えるような働きはなかなかできない。事業面でインパクトを出したいという考えから戦略コンサルタントを目指しました。

――TBMの前はアクセンチュアで戦略コンサルタントとして事業推進に関わってきたんですね。

コンサルタントとしては特に環境問題に取り組んだわけではなくて、とにかく新しいことをするのが好きだったので、消費財業界の新規事業ばかり担当していました。次々と面白い仕事が来るので、気づいたら30代も後半に差し掛かっていました。本質的にはものづくり、技術に寄与したいという思いがあったので、抜本的に自分のキャリアを変えるチャレンジをするには最後のチャンスだと考え、TBMにジョインしました。

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#2. 一つのことを突き詰めてやり遂げることは苦手だった

――転職に際しては、自分の強みは何かを見つめ直しますよね。人としての強さって、努力しなくてもできる「天性」の部分と、努力しないとできないことに向き合って取り組むことから生まれると思います。得意なことだけに安住していると、なかなか大きなことはできないな、と。杉山さんは自分の先天的な強みと弱みをどう自己分析していますか。

うーーん……ニュートラルな“耳の良さ”と、それに対する機転と瞬発力。これは自分の先天的な強みだと思っていて、非常識な成果を出す時の持ち味となっているし、活かしていこうと思っています。一方で、継続力と心のタフネスさについては、僕はすごく劣っていると自覚しています。飽きっぽいんです。新規事業をずっとやってきたのも、思えばその志向性からではないか、と。一つのことを突き詰めてやり遂げることが苦手かもしれません。
あと、心の弱さもあって、ちょっと困難に遭ったら「はい、次」と新しいことに移る。タフに長くやり続けて大きな成果を出すということをやりきれない。ニュートラルな“耳の良さ”と表現しましたが、なまじ周りの声を感じる力があるせいで、気になっちゃうし、それで諦めてしまう。正直、そんな人間でした。だから、そういう意味でも父を尊敬しているんです。

――意外ですね。横須賀工場の立ち上げに関わる姿からはまったくそうは見えません。

まさにTBMで、いちばん成長させてもらったところです。でも、本当に苦しい時期もありましたし、何度も悔し涙を流しました。

#3. 「調べる」でも「考える」でもなく、大事なのは「感じること」

――リサイクル工場を作るというのは、TBMとしても初めての仕事で、継続力と諦めない力を必要としたのではないですか。

2018年に入社して、2019年からはLIMEXの事業開発と資源循環の仕事の両方を自分が背負わせてもらうようになりました。でも、やるべきことの幅が広すぎて、全く手が回らないんです。広く薄くやっていても成果が出ない。それで、当時5、6本あった構想の中から、「自分たちでリサイクル工場をやる」ということにフォーカスを定めました。これを一気に実現したら、会社の目指す方向としても、社会に対するインパクトとしても、そして自分のWILL(意志)としても価値がある。すべての掛け算の答えがこれだ、と。
諦めずにやりきるためには、魂を込めるべき「光明」を、自分が見つけることが大事だと実感しています。リサイクル工場をやろうと決めはしましたが、半年くらい駆けずり回って、リサイクル工場を回ってヒアリングを重ねても光明が見えてこない。
そんな中で、いま導入している廃プラスチックの自動選別機を見る機会があって、「これだ!」とひらめきました。これを日本にインストールすれば、事業化できるだけでなく、社会を変えていくきっかけにもなるなと。それが2021年9月ごろです。そこからのスピードはすごく早かった。

――まさに「光明が見えた」わけですね

自動選別機を入れているリサイクル工場はいくつも見学はしたのですが、どれもピンとこなくて……。でも、今入れている自動選別の機械を初めて見たとき、こういうラインにして、こんなオペレーションにしたらいける!という生々しいイメージが湧いたんです。たくさんの人が見学に来て、リサイクルした製品を続々と送り出している様子まで、リアルな絵としてイメージできた。
ロジックじゃないんです。統計情報を見たり、二次情報をヒアリングするとか、設備紹介のビデオを見たりとかでは絶対に浮かんでこないイメージ。ゼロイチでなにかを作り上げるときには、それを主導する人が「魂を込められるイメージ」を見つけ出すことが一番大切だと確信しています。

――杉山さんが戦略コンサル時代に書いた『外資系コンサルのリサーチ技法』を読んだんですが、リサーチのノウハウがふんだんに紹介されていて有用だった一方、あとがきに「調べる作業」を支える「考える作業」のほうが重要だと書かれていて、非常に腑に落ちました。でも、もっと大事なのはその先の「現物を見て感じること」なんですね。

いや本当に(苦笑)。調べることでも考えることでもなく、大事なのは「感じること」ですよ。今は、あの本を書いていたコンサル時代には見えてなかった世界を見ていることを実感しています。

#4. リサイクル業のバリューチェーン上でのポジションを高めたい

――横須賀工場はLIMEXだけでなく廃プラスチックも一括回収してきて、先述した自動選別機で選り分けてリサイクルペレットにしていくわけですが、この「マテリアルリサイクル」を日本でもっと広げていく役割を負っています。

日本では、国内で排出された廃プラスチックのうち86%がリサイクルされていると言われますが、そのうち62%は焼却することで熱エネルギーを回収する「サーマルリサイクル」で、単純焼却される分と合わせ、約70%が燃やされているのが実態です。一方で廃プラを再びプラスチック製品に戻す「マテリアルリサイクル」は21%にとどまっています。横須賀工場を、プラスチックのマテリアルリサイクル率を全国的に高めていくきっかけの存在にしたいですね。
そのためには、リサイクル業のバリューチェーン上でのポジションを高める必要があります。例えばヨーロッパだと、回収したプラスチック製品が複数の素材が組み合わされた構造になっているせいでリサイクルしにくかったりすると、その声をメーカーにフィードバックするんです。それで実際に製品の仕様が変わったりする。再生処理をしている人たちが、メーカーだけでなく行政や消費者に対しても影響力のあるポジションになっています。
消費者を含めたサプライチェーン全体に変容を起こすには、僕たちがそういう存在になることが必要です。そしてそれは、「静脈」をずっとやっていたプレイヤーにはできないんですよ。僕らだからこそできることだと思います。

――新規参入者だからこそ変革を起こせる。

あと、確信しているのは、「動脈」と呼ばれるものづくり産業は、世界的に洗練されていますが同時に成熟してきてもいます。対してリサイクルの分野は、動脈に比べて人も技術もノウハウも、培ってきた研究開発も圧倒的に少ない。だからこそ、しっかり取り組めば発展の余地がめちゃめちゃあるんです。それでいて、これからいちばん重要な産業です。日本がリーダーとして世界に発信できる可能性がある。そんな産業は他にはありませんよ。
実際、僕らは検討開始から2年で国内トップクラスになっているわけです。本気であと2、3年やれば、グローバルで出し抜けると確信しています。

#5. エキサイティングさは大企業とまったく別の次元

――そんなグローバルな挑戦を遂行するには、もっと仲間が必要です。今、どんな人たちを求めていますか。

いま横須賀工場に集結している仲間にリサイクル業界出身者はいなくて、むしろ動脈のものづくりをやってきた人ばかりなんです。確かに、これまでの産業構造と人材の流れとしては、スキル、マインド共に優秀な人材は動脈側にいる。そういう方々に来てもらっているという意味では、今後もそれを押し広げていきたいですね。
リサイクル業そのものに対するハードのスキルの知見は、特に求めていません。そこはすぐキャッチアップできます。重視するのは、僕らがやっていることに意義を感じて飛び込んでくれるかという、ソフトの部分。TBMのカルチャーにマッチするかのほうを基軸に置いています。
新しい工場ですから、困難な課題は発生します。「悲観は本能で、楽観は意志」というのが僕の座右の銘なのですが、意思としての楽観を持ち続けて前向きに取り組み、アタックし続けられるかどうかが、最も求められる要素だと思います。

――横須賀工場のオペレーションとは別に、TBMとして今後、同様の工場を国内外に展開しようとしている中で、本社側のメンバーも必要です。

はい。技術面、営業面で横須賀工場をサポートするだけでなく、国内、海外の工場展開をゼロイチで立ち上げていくために、求められるケイパビリティ(能力)は広いですね。
工場建設の立地候補探しでは自治体を含めて泥臭い営業もできなければならないし、新しい生産技術やリサイクル技術の取り込みも組織としてやっていかなければならない。どこかの要素を専門的にやっていただくというより、それまでのキャリアで成果を発揮していただけるところは即戦力として期待しつつも、幅広い業務を全員で補い合うかたちでカバーしてもらうことになると思います。

――一人何役もこなさなければならないのは、まさにスタートアップならではですね。

本当にそうですね。1人で1〜2プラント、頭を張って主導してもらいたい。今だと1人3プラントくらいになっているので(笑)。
そこが、大企業の新規事業開発とまったく違うところです。大企業の場合は、本業があっての新規事業であって、中には本気度が感じられないものも正直あるし、やったとしても小さく終わるのがほとんどです。でも、TBMはこの横須賀工場もそうですが、サステナビリティ領域で社会に貢献する事業を起こすというブレない考えの下、やると決めたら、それをやりきる。そして会社の運命を左右する中核事業とする責任も持たされる。エキサイティングさは、大企業とまったく別の次元です。
スピードに関しても、横須賀工場の規模なら普通に考えたら5年はかかるでしょう。それを1年半で竣工まで持ってきた。実際、一気に社会にインパクトをもたらす成長を実現するためには、そのスピード感でやっていかないと、絶対追いつかないですからね。

#6. コンサルタント時代の自分だったら「無理だ」と一蹴していた

だから、主導するメンバーに任される裁量も大企業とは次元が違います。
事業計画から営業、技術開発、建屋設備の設計開発まで、ひとつひとつを専門家に任せるのでなく、1人1人が自律的に全員でやっていく。なにしろ、今年工場メンバーを集めるまで、ほぼ僕1人でやっていた、というかやらせてもらっていました。そういう会社です。
これから国内にも一気呵成に多拠点展開し、海外にも出ていくために、さらにメンバーを増やしていくことになりますが、1人当たり裁量範囲の広さは変わらず、エキサイティングさも変わらないでしょうね。

――戦略コンサルタントだった当時の杉山さんがTBMの事業計画を聞いたら、どんな風に関わっていたと思いますか。

この横須賀工場の建設に限らず、TBMがやろうとしているスピード感の事業計画をスタッフが持ってきたら、「現実的じゃない」と一蹴しているでしょうね。

――無理だ、と。

コンサルタントはロジック詰めの世界で、思いが事業を動かしていくスタートアップとは根本的に違うんです。そこは私がTBMに入って目からウロコで学ばせてもらったところだし、TBMなら本当にできるというのを目の当たりにしました。
本当に成長させてもらったなと思っています。まったく違う人間になりました。

――ありがとうございました。

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